2005年2月28日

2005年2月

無冠の帝王 05/2/28
野球の小ネタ 05/2/26
セイバーズ選手の近況2 05/2/23
アカデミー賞の穴馬 05/2/20
ホッケーの小ネタ 05/2/19
セイバーズ選手の近況 05/2/16
まさかまさかの…… 05/2/14
ハイフェッツ・オン・TV 05/2/13
ホッケー国際大会の小ネタ 05/2/13
春の映画紹介 05/2/8
ドラフト外の選手 05/2/7
トリノ五輪予選 05/2/4
ウィニペグでShall We Dance? 05/2/2
増刷本 05/2/2



無冠の帝王 05/2/28

 マーティン・スコセッシはよっぽどハリウッド人種に嫌われているのだなあ、というのが、アカデミー賞発表の感想。作品賞など主要4部門受賞の「ミリオンダラー・ベイビー」はもちろん、いい映画なのだろうし、昨年はイーストウッド監督の「ミスティック・リバー」が、戦闘シーンおたくとしか言いようのないピーター・ジャクソンと「王の帰還」に敗れたので、その分、票が入ったのかもしれないが……。
 しかし、日本ではもっぱらレオナルド・ディカプリオの方が話題で、無冠の帝王などと言われているけれど、ディカプリオの年で無冠の帝王はまだ早いだろう。スコセッシの方が無冠の帝王だ。
 無冠の帝王と言えば、「ミリオンダラー・ベイビー」で助演男優賞受賞のモーガン・フリーマンはまさに無冠の帝王だった。これまでにチャンスは何度かあったのだが、最近はやたら映画に出まくっているので、かえって賞のチャンスのあるような役にめぐまれなくなっていたので、このまま本当に無冠の帝王のまま、功労賞を取って終わりになるかと思っていたので、とてもうれしい。誰もが認める名優であり、出ているだけで映画に威厳が加わる。神様(「ブルース・オールマイティ」)と大統領(「ディープ・インパクト」)の両方を演じられるハリウッド・スターは彼だけだろう。
 「ミリオンダラー・ベイビー」はまだ見ていないので、何とも言えないが、イーストウッドとフリーマンが若い女性ボクサー(ヒラリー・スワンク)を育てる話と聞くと、これはハリウッドが好きな父ものだな、と思ってしまう。スワンクは「インソムニア」でも父のようなベテラン刑事にあこがれる女性刑事を演じていた。作品賞と主演男優賞の候補になっていた「ネバーランド」も一種の父ものだ。「ピーターパン」の作者ジェームズ・バリが未亡人と子供たちと交流を持つ話で、ジョニー・デップの演じるバリは永遠の少年であると同時に、子供たちの父親代わりとしての顔も持っていた。「シザーハンズ」や「エド・ウッド」に共通する永遠の少年であり、なおかつ、父親らしさも表現したデップもすばらしかった。
 主演男優賞を獲得したジェイミー・フォックスの「レイ」は、どちらかというと母もの。ただし、マザコンものではなく、強い母の偉大な教えみたいなポジティヴなもの。こういう母ものは受けがいい。
 それに対し、「アビエイター」はマザコン的なところがハリウッド人種には受けなかったかな、と思わないでもない。ニューヨーク派のスコセッシがハリウッドを描いたのも気に入られなかったのか。おまけに雨の降らないカリフォルニアで雲待ちしてる話なのに、例によってロケ地はカナダのモントリオールとケベックだとか(って、これは関係ないだろう)。主人公ハワード・ヒューズの狂気がどこかアメリカの暗部に重なって見えたり、マザコンの暗い影があったりと、やっぱりスコセッシらしい映画なのだ。
 「エターナル・サンシャイン」の脚本賞受賞もうれしかった。これはすごくよくできた脚本なのだ。主演のジム・キャリーもアカデミー賞は無冠の帝王(には、やはりまだ早いが)で、ゴールデングローブ賞は2度も受賞しているのに、アカデミー賞はノミネートなし。特に「マン・オン・ザ・ムーン」はアカデミー会員から政治的なボイコットを受けたという有名な逸話がある。
 外国語映画賞はスペインの「海を飛ぶ夢」に決まった。尊厳死を扱った重い映画だが、受賞が日本でのヒットにつながってほしいと思う。



野球の小ネタ 05/2/26

 プロ野球はキャンプも終わり、いよいよシーズン開幕に向けてオープン戦の時期に入った。
 オープン戦と言えば、だいぶ昔、学生時代に春休みを利用して九州旅行をしたときのこと。最初に泊まった鹿児島のホテルに、なんと、読売巨人軍が泊まっていた。で、次に泊まった熊本のホテルには、ぬわんと、広島カープがいたのである。
 どちらも、レストランが選手たちで貸切になっていたっけ。
 どっちのファンでもなかったので、ホテルの玄関で出待ちなんてことはしなかったけど、考えてみたら、両方ともビジネスホテルだったのである。あの頃のプロ野球はつつましかったのだろうか。それとも、二軍だったのであろうか。

 私は川崎生まれなので、当然、大洋ホエールズのファンであった。大洋が横浜に移った頃にはもう川崎市には住んでいなかったが、それでも、横浜に大洋を取られたと思うと悔しかった(横浜以外に住む神奈川県民は、横浜に対してある種のライバル意識があるのである)。それでも、やっぱり、一番応援するプロ野球チームは横浜ベイスターズ。ということで、中日とロッテのイメージが強い牛島が監督に決まったときは、ちょっと複雑な気分だった。
 というのも、牛島がいた頃の中日はかなり好きだったし、ロッテは大洋が横浜に移ったあと、一時、川崎球場をフランチャイズにしていて、あの9・19のドラマが起こったのも川崎球場だった。
 んなわけで、牛島新監督、うーん、と思っていたのだが、ベイのユニフォームが意外によく似合うし、あのさわやかな感じがまあ、横浜ベイのイメージには合ってるかな、と(昔の大洋はもっと違うイメージだったが)。
 落合と交換でロッテにトレードされたとか、中日の監督候補だったのに落合に取られたとか、悲運のイメージがあるのが気になると言えば気になる。
 ストッパーとしては、いつもズボンを上げながら出てくるのが印象的だったけど、監督として出てくるときもズボンを上げながら出てくるのだろうか。まさかね。

 北米ではNHLがサラリーキャップについての労使紛争の結果、シーズン全日程キャンセルという事態になってしまった。
 でも、NBAがあるし、もうすぐMLBも始まるよ、と、ファンは自らを慰めているのだが、そのMLBも、近いうちに、NHLと同じく、サラリーキャップをめぐってもめるだろうと言われている。
 NHLの選手たちはシーズンがないので、働き場所を求めてヨーロッパに渡っているのだが、MLBが同じことになったら、日本人選手は当然、日本に帰ってくるだろう。で、日本人以外の選手も日本でプレーしたがるかもしれない。日本のプロ野球には外国人枠があるので、いくらでも歓迎とはいかないが、それでも、そういう事態がいずれ、起こるのではないかと思う。
 ちなみに、サラリーキャップは北米に特徴的な制度で、日本やヨーロッパにはほとんどないそうだ。その理由は、日本やヨーロッパは北米のような徹底した資本主義ではなく、ある程度、社会主義になっているので、歯止めがきいている。しかし、北米では資本主義が徹底していて、なおかつ、市場が巨大なので、サラリーキャップのような制度を導入しなければ、大きな歪みが生じてしまう、ということらしい。NFL、NBAはサラリーキャップを導入してある程度うまくいっているが、導入していないMLBとNHLは危機的な状況にあるのである。



セイバーズ選手の近況2 05/2/23

 アマークスは2月19日の試合に勝ってホーム連勝タイ記録となった。この試合でもヴァネクは大活躍。相変わらず、ずば抜けた点取り屋はいないのだけど、ゴーリーのミラー、昨季セイバーズでも活躍したデレク・ロイ、ヴァネクに次ぐ第2の新人ダニエル・パイエ、ベテランのクリス・テイラーなどが活躍している。昨年3月にセイバーズにトレードされてきたジェフ・ジルソンも今季はここでプレーしている。

 主力選手でどこでもプレーしていないのは、クリス・ドゥルーリー、マルタン・ビロン、ジェイ・マッキーなど。ドゥルーリーはNHL選手になったとき、選手会から、ロックアウトに備えて貯金しとけと言われ、しっかり貯金していたので大丈夫らしい。ビロンとマッキーは、今もバッファローに住むペカなどと自主トレ中。UFAのアレクセイ・ジトニクはセイバーズの契約オファーを保留にして、他チームからのオファーを見ながら模様眺めだったが、今はロシアの石油成金チームでプレーしている。

 スウェーデンのチームをクビになったタリンダーは、ブリエアとデュモンが所属するスイス・リーグのベルンに参加の予定だという。



アカデミー賞の穴馬 05/2/20

 アカデミー賞の授賞式まであと1週間ほどになった。今年はたぶん、「アビエイター」の圧勝で、マーティン・スコセッシがいよいよ監督賞受賞ではないかと思う。スコセッシは前作「ギャング・オブ・ニューヨーク」も力作だったのだが、対抗馬が強力すぎて涙を飲んだ。今年は対抗馬に強力なものがないし、「アビエイター」という作品自体、娯楽的にも芸術的にも優れた、作品賞にふさわしい映画だ。
 で、本命「アビエイター」に対して、穴馬的存在だな、と思うのは、マイク・リー監督の「ヴェラ・ドレイク」。主演女優賞と監督賞、オリジナル脚本賞にノミネートされている。
 実は私はマイク・リーにインタビューしたことがあるのだ。もう10年以上前になるが、「ネイキッド」という映画で初来日したときのことである。当時はリーの映画は日本では一般公開されたことがなく、私も「ネイキッド」で初めてリーの映画を見た。その後、「秘密と嘘」とか、「ワーキング・ガール」とか、さまざまな映画が公開されて、「ネイキッド」は必ずしもリーの作風を代表する映画でないことがわかったけれど、当時はとにかくこれしか知らなかったので、映画にあらわれた象徴的な部分についてばかり質問してしまった。思い出すと今でも冷や汗が出てくる。
 リーの映画は、むしろ、「秘密と嘘」や「ヴェラ・ドレイク」のような市井の人々の人間ドラマが特徴なのである。「ヴェラ・ドレイク」は1950年のイギリスを舞台に、当時は禁止されていた中絶処置をする中年女性とその家族を描いている。ヒロイン、ヴェラはまったくの善意から貧しい女性たちのために中絶をしていて、お金は一銭も取らない。彼女は人助けをしていると思い込んでいる。だが、彼女のせいで死にそうになった女性がいたために、警察がやってくる。
 ヴェラを取り巻く人々の態度や行動の違い、そして、金持ちと貧しい人々の格差が鋭く描かれていて、暗い話なのだが、それでも深い感動がある傑作だ。主演女優賞にノミネートされているイメルダ・スタウントンの演技があまりにも自然で驚いてしまう。登場人物を緻密に、しかもあたたかく描き、きびしい現実の中にも人間のすばらしさをかいま見せるマイク・リーの演出もみごとだ。2人とも受賞しておかしくない演技と演出である。
 でも、監督賞はやっぱりスコセッシだろう。主演女優賞とオリジナル脚本賞は「エターナル・サンシャイン」が有力な気がするが、主演女優賞は「ヴェラ・ドレイク」、オリジナル脚本賞は「エターナル・サンシャイン」が受賞してほしい、というのが私の希望です。



ホッケーの小ネタ 05/2/19

 五輪予選に出場していたヴァネクがアマークスに復帰。17日の試合では無得点だったが、18日には1ゴール2アシストで、五輪予選の不振を払拭した。
 ヴァネクは母国オーストリアではドイツ語読みのファネクだと思うが、セイバーズと契約する前から北米にいたので、英語読みで通っているのではないかと思う(でも、ヴァイネクだったりするかも……)。エスニック的には、彼はチェコ系のオーストリア人だとのこと。
 ヴァネクは03年のセイバーズドラフト1位、NHL全体5位で、その年、セイバーズがカンファレンス13位と下位に沈んでいたので手に入った有力選手。セイバーズのレフトウィングとしてはアンドレイチャク以来の大型新人と言われている。アマークスの試合を見た人の話だと、体がデカイ、パワープレイに強い、ディフェンスのことなどまるで考えず、ゴールすることしか頭にない、と、タンパのキャプテンの若い頃にそっくりだとか。もちろん、ファンはアンドレイチャクを超える選手になることを期待している。

 例のレイプ疑惑のスウェーデンの3人のNHL選手の内、2人がスウェーデンのチームから解雇された。残る1人も今季は出場停止だそうで、スウェーデン・ホッケー界は相当にお怒りである。3人とも、証拠不十分でお咎めなしになっているので、シロではなく灰色。

 所属するチーム、コンドルズの事情で五輪予選に出場できなかった福藤だが、日本チームを応援しているファンはまったくがっかりしていないらしい。某巨大掲示板では、「春名でも福藤でも同じ」と書かれていた。日本チームの問題は、もっぱら攻撃面のようだ。ヴァネクの例でもわかるように、北米マイナーリーグで活躍したから五輪予選で通用するのかどうかはわからないわけである。個人的には、昨年の世界選手権で1勝もできなかったので、コンドルズの経験で1勝ができるかどうかを見たかったのだが。



セイバーズ選手の近況 05/2/16

 五輪予選の最終戦が行なわれた13日、ハンガリーのブダペストでは4カ国参加のホッケー大会の決勝戦が行なわれ、スロバキアがカナダを敗って優勝。キャプテンのシャターンがベスト・アタッカーに選ばれた。
 14日のバレンタイン・デーには米国東部のマンチェスターでAHLのオールスターが開催された。選手はカナダ・チームと他国チームに別れ、アマークスからはゴーリーのライアン・ミラーとフォワードのトマス・ヴァネクが選ばれたが、前にも書いたようにオーストリア人ヴァネクは五輪予選のために辞退。アメリカ人ミラーが他国チームで参加した。
 試合は第1ピリオドに先発したゴーリーのレトネンが不調だったのか、カナダに4点も取られてしまった。レトネンはAHLでは1番のゴーリーと言われているのに、どうしたことか。
 他国チームはその後、2ピリと3ピリで同点に追いつき、シュートアウトでの決定となった。3ピリから出場したミラーは3本のシュートをすべて止め、逆にカナダ・チームのゴーリー、ガロンは3本すべて決められて、他国チームの勝利。
 AHLの結果を見る限り、ミラーは相当にいいゴーリーなのだなあと思う。
 セイバーズの3人のゴーリーの内、ミラーはAHLで活躍中、ノロネンは母国フィンランドのリーグでプレー、ビロンだけがプレーせずに自主トレ中、となっている。他のトップ選手では、ブリエアがスイス・リーグのベルンで活躍中。ベルンではスラッシャーズのヒートリーといいコンビだったのだが、そのヒートリーがロシアの石油成金のチームに移籍、かわりにセイバーズの同僚デュモンがベルン入りした。ブリエアとデュモンは、セイバーズではシャターンとともにラインを組んでいたし、プライベートでも仲良しらしい。



まさかまさかの…… 05/2/14

 アイスホッケーのトリノ五輪予選、残念ながら日本は全敗。最後のノルウェー戦は途中までリードしていたのに、惜しかったが、それよりも、まさかまさかの結果になったのがオーストリア。
 オーストリアはランキング12位で、所属するCグループでは一番可能性が高かったはずなのに、さっき、ウクライナに負けてしまったのだ!
 これで、続いて行なわれるフランスとカザフスタンの勝者が五輪の切符を手にすることになる。
 オーストリアは初戦のカザフスタン戦は楽勝。ところが、続くフランス戦は、モントリオール・カナディアンズに所属するゴーリー、Huetにシュートをはばまれ、セイバーズの新人で二軍のアマークスで活躍するヴァネクがゴールして、かろうじて引き分けに持ち込んだのだ。
 そして、最終戦のウクライナには、3ピリ後半に得点されて、4対3で負けた。
 日本もシュートできないが、オーストリアもこの試合は5本しかシュートしてない。それで3点取ったのだから、ばかに効率がいいが、打たなきゃ勝てないのだ! 先だっての日本のサッカーもやけにシュートが少なかったけれど。
 ヴァネクは結局、3試合で1ゴールしかできず、AHLよりも五輪予選の方がきびしいという結果になったが、これをよい経験にして、またがんばってほしい。
 フランスは昨年の世界選手権では、日本とともに下位のディビジョンに落ちる結果になったのだけど、五輪予選ではランキング上位のウクライナを敗っていて、ゴーリーのHuetの力が大きいのだろう。彼は去年の夏にロサンゼルス・キングスからトレードされてカナディアンズに行ったので、まだカナディアンズではプレーしてないのだが。

 前にも書いたように、アマークスはヴァネクの活躍で連勝街道まっしぐら、開幕当初の連敗街道はどこへやら、いつのまにかリーグ首位になっていたのだが、ヴァネクは五輪予選のためにアマークスの4試合とオールスターを欠場して、オーストリアへ出かけていたのだ。
 アマークスは12日の前半最後の試合は負けたものの、リーグ首位を守って前半戦を終えた。14日にAHLのオールスターが行なわれ、その後、シーズン後半戦に突入する。

追記
 で、ぬわんと、カザフが勝ってしまいました(汗)。
 某ブログで、ホッケー五輪予選を地区ごとにしたら、アジア枠にカザフが来る、なんて書いてしまったら、これだ。



ハイフェッツ・オン・TV 05/2/13

 20世紀最高のヴァイオリニスト、いや、人類史上最高のヴァイオリニストかもしれないと言われているヤッシャ・ハイフェッツのテレビ番組のDVDを見つけ、早速購入。
 実はこの番組、10年ほど前にLDになっていて、それをよく見ていたのだ。
 これには前に紹介したピエール・アモワイヤルも出演しているのだが、日本で出たLDではカットされてしまっていた。でも、このDVD(輸入盤)にはしっかり入っている。当時はまだハイフェッツの弟子で、先生に指導されながらヴァイオリンを弾くシーンがちょこっと入っているだけだけれど。
 また、ハイフェッツが卓球をしたり、車をいじったりするシーンもLDにはなかったような気がする。ハイフェッツは卓球が誰にも負けないくらい得意で、車も大好きなのだ。若い頃はスピード狂だったらしい。
 このテレビ番組は1970年、ハイフェッツの70歳の誕生年を祝って製作されたもの。前半が小さなサロンのようなところでヴァイオリンの小曲を演奏するシーン、スタジオでバッハの「シャコンヌ」を演奏するシーン、そして後半が、パリ国立管弦楽団とともにブルッフの「スコットランド幻想曲」を演奏するシーンだ。
 「スコットランド幻想曲」は指揮者を立てず、ハイフェッツがヴァイオリンを弾きながら、ときどき、弓で指揮をするというスタイル。この曲は第3楽章の美しいメロディがあるスポーツ番組のエンディングに使われているので、題名は知らなくても曲はよく知られていると思う。
 10代後半からプロとして活躍していたハイフェッツは、60歳をすぎてからはコンサートをしなくなっていた。この番組は彼が久しぶりに聴衆の前で演奏したものだった。そして72年、教授をしていた南カリフォルニア大学のためのコンサートをしたあと、彼は演奏をいっさいしなくなってしまう。
 伝記によると、肩を手術したあと、以前のような演奏ができなくなり、人前で弾くことをやめてしまったのだそうだ。
 つまり、このテレビ番組と72年のコンサート(CDあり)がハイフェッツの最後の時期の演奏ということになる。とはいっても、最晩年の演奏とは思えない、まったく完璧な演奏である。
 ハイフェッツは常に完璧であることを求めていた。彼は引退表明はしなかったが、完璧な演奏はできないと判断したので、やめたのだろう。亡くなったのは最後の演奏から15年後の1987年。
 南カリフォルニア大学は、今でこそ、優れた映画人を輩出する映画学科が有名だが、ハイフェッツがいた頃は予算の多くが経済や理工系の学科に行ってしまい、映画学科や音楽科にはろくに予算がまわらなかった。ハイフェッツのコンサートは、音楽科の資金集めのためだったのである。



ホッケー国際大会の小ネタ 05/2/13

 トリノ五輪予選がヨーロッパのあちこちで開催されているという話はすでにしたけれど、実はこれ以外にも同じ時期にスウェーデンとハンガリーでホッケー国際大会が行なわれている。
 スウェーデンの大会はスウェーデン、フィンランド、チェコ、ロシアが参加。セイバーズの選手では、フィンランドのノロネンとスウェーデンのタリンダーが参加しているらしい。
 で、スウェーデンの試合の前にタリンダーを含む3人の選手が警察に事情聴取に呼ばれ、試合を欠場というとんでもない事件が起こった。なんでも、22歳の女性にレイプで訴えられたのだとか。
 結局、3人の嫌疑は晴れたのだが、NHLがロックアウト中で、その上、国際大会の場で、何をやっているのか、と思ってしまう。犯罪ではないにしても、軽率なことをしたのだろう。(その後のニュースによると、3人はスウェーデンのホッケー界や選手の名誉を傷つけ、くだんの女性に迷惑をかけたとして、試合をサスペンドになった。)
 ハンガリーの大会は、ハンガリー、ドイツ、スロバキア、カナダが参加。セイバーズの選手では、ドイツのヘヒトとスロバキアのシャターンが参加している。こちらはシャターンがしっかり母国のチームを率いて活躍しているようだ。
 トリノ五輪予選は、当初、日本代表に選ばれていた福藤が、所属するベイカーズフィールド・コンドルズが参加を許可してくれず、結局、不参加となってしまった。



春の映画紹介 05/2/8

 3月から4月に公開される映画をネタバレなしでご紹介。

「バッド・エデュケーション」
 スペインのペドロ・アルモドバル監督の新作。映画監督をしている男の前に、神学校の同級生だったという俳優が現れる。彼は神学校で神父から性的虐待を受け、それをもとに脚本を書いたので、映画にしてほしいと言う。監督は彼にひかれ、映画を作るが、しだいに思いがけない展開になっていく。
 同性愛で結ばれた2人の美青年という、まるで「風と木の詩」のような設定だが、アルモドバルの語り口は一筋縄ではいかない。同級生を名乗る俳優の正体がわかったあと、物語は思わぬ方向に進んでいく。そして、ラストの衝撃。見応え十分の人間ドラマ。

「サマリア」
 韓国のキム・ギドク監督の新作。前作「春夏秋冬そして春」と同じ宗教的なテーマが描かれているが、内容は韓国の女子高生の援助交際。援助交際をする少女と、彼女を見守る親友、そして、援助交際をする少女の自殺から起こる贖罪の旅が、さらなる罪を生む。娘の援助交際を知った父親の怒りがすさまじい。

「クローサー」
 ナタリー・ポートマンとクライヴ・オーウェンがアカデミー賞助演男女優賞にノミネートされた作品。舞台劇の映画化だが、舞台臭は少なく、映画としてよくこなれている。4人の男女の愛のうつろいを描いているが、愛をめぐる男の戦い、それをはぐらかす女たち、といったドラマが展開する。演技も内容も見応え十分の大人のドラマ。主役のジュリア・ロバーツとジュード・ロウも美しい。

「海に飛ぶ夢」
 「アザーズ」のアレハンドロ・アメナーバル監督が描く人間ドラマ。アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされている。
 事故で全身マヒに陥った主人公が尊厳死を求める過程を描いているが、愛や思いやりさえ厭わしく、善意の行為も無神経だったりする現実がリアルに描かれている。その一方で、同じ立場にある者同同士の共感、彼を理解する人々への感謝など、緻密に描かれた人間描写が感動的だ。ハビエル・バルデムの老けメイクもすごい。首から下がマヒした主人公が空を飛んで遠くへ行く幻想シーン、実際に外へ出て外の風景を眺めるシーンも印象的。

「アビエイター」
 アカデミー賞の本命と言われる映画。映画と飛行機に情熱を燃やした若きハワード・ヒューズの伝記。若い情熱と狂気がマーティン・スコセッシの手で精緻に巧妙に描かれている。理想を追求するアメリカの青春と、その終焉、やがて訪れる暗い時代を予感させるような映画。レオナルド・ディカプリオが童顔で演じるヒューズが効果的。ほかにケイト・ブランシェットがキャサリン・ヘップバーン、ケイト・ベッキンセールがエヴァ・ガードナー、ジュード・ロウがエロール・フリンを演じている。



ドラフト外の選手 05/2/7

 昨シーズンのNHLで最も話題になった選手は、ドラフトされずにNHLに入り、そこから得点王とシーズンMVPに輝いた小柄な選手、マルタン・サンルイだった。
 サンルイはドラフト外でカルガリー・フレームズに入団、しかし、フレームズでは芽が出ずに解雇、その後、タンパベイ・ライトニングに拾われて大ブレイクした。
 ライトニングには、実はもう1人、ドラフト外でNHLに入り、ブレイクした選手がいる。スタンレーカップ・ファイナル最終戦で決勝ゴールを決めたルスラン・フェドテンコだ。
 フェドテンコもドラフト外でフィラデルフィア・フライヤーズに入団。やはり芽が出ずにライトニングにトレードされたのだ。
 奇しくもライトニングのプレーオフの相手は、東カンファレンス・ファイナルがフェドテンコの古巣フライヤーズ、カップ・ファイナルがサンルイの古巣フレームズだった。カンファレンス・ファイナルではフェドテンコが大活躍していたので、記者たちからは、「これはフェドテンコのリベンジか」との質問が出た。それに対し、サンルイは、「そんなことは関係ない。彼は今ではライトニングだ」と言い切った。
 カップ・ファイナルへの進出が決まると、「リベンジ」の言葉を引き出したい記者たちは、今度はサンルイに「フレームズへのリベンジか」とたずねた。それに対するサンルイの答えは、「フレームズはNHLへの道を開いてくれたチーム。リベンジではなく、セレブレーションだ」
 サンルイのNHL初試合は日本で行なわれた試合だった。サンルイの父親は、今でもこのときの息子の晴れ姿の写真を家に飾っているという。
 プレーオフでは2回戦でフライヤーズに敗れてしまったトロント・メイプルリーフスのゴーリー、エド・ベルフォアもドラフトされなかった選手。シカゴ・ブラックホークスにドラフト外で入団。その後、実力を発揮し、優れたゴーリーが選ばれる賞、ヴェジナ・トロフィーを2度受賞している。



トリノ五輪予選 05/2/4

 ほとんどの日本人は注目していないと思うが、来週、ヨーロッパ各地でアイスホッケーのトリノ五輪予選が行なわれる。
 日本はスイスで試合をすることになっていて、北米のマイナーリーグ、ECHLのコンドルズにいるゴーリー、福藤も参加。
 で、セイバーズの新人で、ただ今、AHLで活躍中のオーストリア人、トマス・ヴァネク(ドイツ語読みならファネク?)もオーストリア代表として出場するのだそうだ(こちらはオーストリアで開催)。
 ヴァネクはAHLのオールスターにも出場できたのに、こっちは断って、祖国のために五輪予選を選んだ。
 日本もオーストリアも微妙なところなので、ぜひ、がんばってほしい。

 なお、昨年の世界選手権で上位に入ったチームはすでにトリノ行きの切符を手に入れている。
 アメリカは一昨年の世界選手権がどん底で、やばかったのだが、昨年、思いがけず、優勝候補のチェコを準々決勝で敗り、準決勝でスウェーデンに敗れたものの、3位決定戦でスロバキアを敗って銅メダルを獲得した(勝った試合が2つともシュートアウト勝ちというのがなんとも)。
 決勝戦と3位決定戦が行なわれたのは5月の第2日曜日、つまり母の日。USAのキャプテンをつとめたクリス・ドゥルーリーは、「故郷を離れ、家族を離れ、母の日も祝えず、でも、銅メダルをもって帰れるのは本当にすばらしい」とコメント。
 チームUSAは、家族同伴せず、いつもみんなで一緒に行動だったそうで、なんだかまるで修学旅行。テロ対策だろうか?
 それにひきかえ、優勝したカナダは家族同伴。カップを囲んでの記念写真では幼い子供を抱いている選手たちがいた。そして、ダニエル・ブリエアは大会が終わったあと、家族とイタリア旅行を楽しんだのだった。



ウィニペグでShall We Dance? 05/2/2

 日本映画のリメイク、「Shall We Dance?」の試写会に行ってきた。舞台をシカゴに置き換え、リチャード・ギアとジェニファー・ロペスが主演。脇役も個性的で、とても楽しめる映画だった。
 しかし、撮影場所がカナダ・マニトバ州のウィニペグと知ってびっくり。
 映画ファンならご存じのように、しばらく前から、ハリウッド映画がカナダのトロントやヴァンクーヴァーで撮影されるのはごくごく普通のことになっていた。アメリカ東部が舞台だとトロント、西部が舞台だとヴァンクーヴァーという具合で、昨年見た「セーブ・ザ・ワールド」という映画にいたっては、チェコとアメリカとフランスをすべてトロントで間に合わせるというスグレモノ(?)。最近はモントリオールで撮影されるハリウッド映画も出てきていた。
 たしかにカナダは物価が安いし、スタッフやエキストラは現地で調達できるし、オープンセットを建てられるような広い場所もあるし、自治体も経済効果のために誘致を競っているのだろう。撮影隊が数カ月間来てくれて、現地の人々をやとってくれ、お金も落としてくれるのだから、経済効果は抜群である。
 フランス系の住民の多いモントリオールで撮影した映画だと、エンドロールのスタッフのところにフランス系の名前がずらっと並んで、壮観だ。
 トロント、ヴァンクーヴァー、モントリオールに負けまいと、ウィニペグが出てきたとなると、次はエドモントンかいな。ホッケー・チーム呼ぶよりハリウッド映画呼んだ方がずっと儲かるものね。
 それにひきかえ、わが日本は、長年、映画の撮影に向かない地域だった。物価は高い、東京に一局集中なので、スタッフを東京から呼ぶと宿泊費がかさむ、自治体や警察が融通がきかない、といった具合で、映画界から敬遠されていた。そこで、最近は、自治体が撮影誘致に乗り出したり、各地にフィルム・コミッションができたりしている。
 そうそう、角川春樹の「天と地と」はカナダで撮影された映画だった。侍役のエキストラがカナダ人なので、やたら脚が長く、鎧兜が似合わない侍ばかりだったっけ。



増刷本 05/2/2

 はるか昔に解説を書いた本の増刷のお知らせが来ていた。
 創元推理文庫の「フランケンシュタイン」。メアリ・シェリー作。友人の翻訳に解説を書かせてもらったものだ。
 出た当時はまるで売れず、絶版寸前になっていたのだが、たまたまどこかの学校で教材に使われ、それから少しずつ売れだした。
 90年代にはケネス・ブラナー監督・主演の映画も公開。映画とのタイアップは角川文庫に取られてしまったが、角川のは完訳ではなかったので、創元推理文庫もそこそこ売れた。
 昨年は「ヴァン・ヘルシング」に便乗して少し売れたらしい。
 解説は普通、原稿料が1回払われておしまい。しかし、この本の場合は、私がやたら長い解説を書いてしまったので、出版社は原稿料が高くなるのをいやがったのか(?)、ページ割りの印税になった。だから、出た当時はすごく安かったのだけれど、その後の増刷のおかげでまっとうな値段になったのである。
 私の翻訳書はすべて、絶版になっているか、もはや店頭には置いていない。でも、共訳短編集に、1冊だけ、売れ続けているのがある。
 扶桑社文庫の「魔法の猫」。猫にまつわるホラーやファンタジーやSFがたっぷりの、なかなか楽しい短編集だ。もっとも、最近は増刷になっていないので、いずれ、絶版かな?
 大多数の翻訳書は非常に短い命で、あっという間に消えていくのである。