2005年4月30日

2005年4月

ある金メダリストの物語 05/4/30
AHLプレーオフのことなど 05/4/29
DVDとスシのネタ 05/4/26
「ミラクル」異色のスポ根映画 05/4/24
「ミリオンダラー・ベイビー」 05/4/22
いいなあ。 05/4/20
おめでとう、シャターン! 05/4/19
ヴィニーのロシアンライフ 05/4/18
ペンギンと多重人格とサハラ 05/4/15
忘れられたチーム 05/4/14
欧州プレーオフ情報など 05/4/11
いい話と悪い話 05/4/10
初夏の映画紹介 05/4/8
新型ネットお目見え 05/4/5
セイバーズ選手の近況4 05/4/4
1日遅れのエイプリル・フール 05/4/2
ブリエアの負傷のことなど 05/4/1


ある金メダリストの物語 05/4/30

 オリンピックを描く映画はそれほど多くはない。金メダリストの話となるとさらに少ない。ハリウッド映画でもアメリカ人が金メダルを取る映画はあまりないと思う。アイス・ホッケーでアメリカが金メダルを取る「ミラクル」などはまれな例で、有名な「炎のランナー」はイギリス人が主役のイギリス映画。ディズニーの「クール・ランニング」(メダルは関係ないが)はジャマイカのボブスレー・チームの話。「ミラクル」の項でも書いたけれど、華々しい成功者やドリームチームはハリウッド映画のネタとしてはイマイチ魅力がないのである。
 アメリカ人の金メダリストを描いた映画というと、私は「Jim Thorp: All-American」を思い出す。1951年製作。「カサブランカ」などのマイケル・カーティスが監督し、西部劇からルキノ・ヴィスコンティのイタリア映画まで、多種多様な映画で活躍した大スター、バート・ランカスターが主演している。この映画は日本未公開で、日本ではビデオも出ていないのだが、私はずっと昔にテレビで放送されたのを見ることができた。
 主人公のジム・ソープ(1887年-1953年)は実在の金メダリストである。ネイティヴ・アメリカンとして生まれた彼は貧しい境遇の中から大学に進み、1912年のオリンピックの五種競技と十種競技で金メダルを獲得する。ところがその翌年、オリンピック委員会はアマチュア規定を厳しく適用することにし、大学時代にプロ野球でアルバイトしたことのあるソープの金メダルを剥奪してしまう。ソープは貧しい苦学生だったので、生活のためにアルバイトをしたのであり、アマチュア規定のことを彼は知らなかった。
 失意のソープはしかし、その後、メジャー・リーガーになり、アメフトのプロ選手にもなるが、過度の飲酒のために凋落の人生を送る。映画はソープが苦難を乗り越え、最後に少年たちのアメフト・コーチになるところで終わっているが、自伝の映画化権をすでに売り渡していたソープは、この映画からはまったくお金をもらえなかったらしい。映画製作の2年後、彼はこの世を去った。
 1983年、オリンピック委員会はソープの名誉を回復し、遺族に金メダルを手渡した。死後30年たっての名誉回復だった。プロが出るのが当たり前になっている今のオリンピックを見るたびに、私はあの映画のことを思い出す。私が見たテレビ放映はカットされ、吹き替えになっていたけれど、人種差別や貧困など、社会問題を織り込んで描いたドラマになっていて、見応えがあった。スポーツものではなく、人間ドラマであった。あちらではビデオもDVDも出ているので、いずれ注文してきちんと見てみたいと思う。


AHLプレーオフのことなど 05/4/29

 プレーオフでは1勝もできない、2勝できたらミラクル、などと陰口をたたかれていたアマークスは、なんと、ハミルトン・ブルドッグスをスイープで敗って早々と2回戦進出を決めた。ケガ人の一部が戻ってきたものの、プレーオフに入ってまたケガ人が出てしまい、満身創痍は変わりないのだが。もっとも、4試合とも、負けてもおかしくない展開。ミラーもソリッドとは言い難いようだ。2回戦は来週水曜からだが、まだまだ前途多難である。
 ブルドッグスは昨年もアマークスにスイープされているから、よほど相性が悪いのだろう。昨年は、ブルドッグスの親にあたるモントリオール・カナディアンズがタンパベイ・ライトニングにスイープされて、そのあと、今度はブルドッグスがスイープされてしまったのだけど、上でスイープされたあと、下に移ってまたスイープされた不運な選手もいるのだろうなあ。なのに、タンパのアンドレイチャクが故郷のハミルトンにスタンレー・カップを持ってきたとき、ブルドッグスのマスコットがお出迎え、と聞いて、おいおい、と思ったものです。

 同じくAHLのプレーオフ、先週土曜日のフィラデルフィア対ノーフォークで、ノーフォークの選手アントン・バブチャクがスタンドにペットボトルを投げ込み、5試合出場停止になった。ペットボトルは7歳の男の子の目のそばに当たったのだそうだ。

 先週金曜日にカナダのケベック市で行なわれたカナダ対アメリカのエキシビジョン・ゲームでのこと。国歌斉唱をする予定だったモントリオールの歌手キャロリン・マーシルが、なんと、アメリカ国歌の歌詞を忘れてしまい、歌詞を教えてもらって戻る途中、スッテンコロリン。結局、国歌斉唱抜きで試合が始まったそうな。結果はアメリカの勝ち。歌手は晴れの舞台で頭が真っ白になっていたのだそうだ。

 4月30日からオーストリアで始まる世界選手権。セイバーズの選手ではシャターン(スロバキア)、カリーニンとアフィノゲノフ(ロシア)、ヘヒト(ドイツ)、コタリク(チェコ)といった面々が出場するが、昨年、一昨年とアメリカのキャプテンをつとめたドゥルーリーはなぜか出場しない。NHLがロックアウト中なので、他のチームはNHLのスター選手を多数集めているのにアメリカだけはしょぼい、と言ったら出場選手に悪いが、やっぱりオリンピックの出場権がかかってないとやる気ないのか、アメリカ人?

 セイバーズで2シーズン、ヘッドコーチをつとめ、最優秀ヘッドコーチ賞であるジャック・アダムズ・トロフィーを受賞したにもかかわらず、ハシェックとの確執のせいでセイバーズを去ったテッド・ノーランが、ケベック・メジャー・ジュニア・ホッケー・リーグのモンクトン・ワイルドキャッツのヘッドコーチに決まった。ノーランがヘッドコーチになるのは8年ぶり。以前、カルガリー・フレームズのコーチ就任の話もあったが、このときはダリル・サターに決まっている。ノーランはネイティヴ・アメリカンで、トラブルも多かったが、人気も高かった。

 ゴールデン・ウィークにはバッファローに行きたかったなあ、とつくづく思うのだけど(アマークスの試合も見られたのだね)、現地時間の金曜夜には1994年のプレーオフで第4オーバータイムまで行き、ハシェックが70セーブした有名な試合を放送するらしい。第4OTまで行ったということは、2試合分の時間だが、アデルフィア・ケーブルテレビはノーカットで放送するのだろうか。1対0でセイバーズが勝ったのだが、4時間ぐらいずっと0対0というのも息がつまりそうだ。
 連休中、どこにも行かない私は映画評の原稿を書きます。


DVDとスシのネタ 05/4/26

 セイバーズが優勝してしまう映画、ジム・キャリー主演「ブルース・オールマイティ」のDVDの廉価盤が7月に発売されることになりました。4000円近くしていたものが2600円くらいになるようです。これでも高い、という感じもしますが、特典映像がたっぷり入っているので、キャリーのファンはお買い得かも。かなりたくさん撮影されたらしいホッケー関係のシーンは、残念ながら、特典映像には入っていませんでした。ただ、キャリーがパソコンでお祈りに答えるシーンで、カップ・ファイナルの相手がデトロイト・レッドウィングスであることがわかります。
 この映画、キャリーがセイバーズの古い方のジャージ(ブルー・アンド・ゴールド)を着ている写真も何枚か出回っていて、彼がセイバーズのジャージを着て応援するシーンが撮影されたことがわかるのですが、これもまったく特典には入っていませんでした。
 キャリーがセイバーズの11番ジルベール・ペローのジャージを着ている写真はこちらへ。
 映画のフォト・ギャラリーはここです。

 ミロスラフ・シャターンの公式サイトの話。生まれ故郷の紹介やオイラーズ時代の写真など、興味深いサイトだけれど、スロバキア語のページは更新されているのに、英語のページは2001年でとまっている。スロバキア語は読めないので、とりあえず、英語の方を見ると、インタビューに、
Q 好きな食べ物は?
A スシ。
 NHL選手って、スシが好きなのね。ルカヴァリエもロシアでスシ食ってたが、バッファローにもうまいスシ屋があるのだろうか。バッファロー・ウィングと答えないのがなんだが。


「ミラクル」異色のスポ根映画 05/4/24

 昨年2月にアメリカで公開されたものの、日本公開ならず、3月にDVDが出たので、レンタルして見ました。1980年レイクプラシッド五輪で、当時世界最強だったソ連のホッケー・チームを弱小チームだったアメリカが敗ったという実話の映画化。写真を見たい方はこちらへ(ディズニーはうるさいからねえ)。
 思ったよりずっと地味な映画だった。けっこうベタなスポ根もので、アメリカが勝つ話なんて見たくねえ、と思う人もいるかもしれないが、非常にまじめないい映画である。娯楽性では「シービスケット」に、芸術性では「プライド 栄光への絆」に一歩及ばない出来栄えだが、スポーツものとしては一見の価値がある。
 メインタイトルが、私のような世代には感無量だ。70年代の出来事が次々とバックに現れる。ヴェトナム戦争、ウォーターゲイト事件……アメリカの低迷と混迷の時代をメインタイトルで一気に見せる。「シービスケット」が30年代の不況の時代に人々に夢を与えた競走馬を描いたように、ここでは70年代から80年代の混迷の時代にアメリカ人に元気を与えたホッケー・チームを描く。定番と言えば定番だが、こういうところがハリウッド映画のうまいところだ。
 その一方で、長年ハリウッド映画を見続けてきた私の目から見ると、これは異色のスポ根映画である。
 ヘッドコーチのハーブ・ブルックス(カート・ラッセル)は、大学生の寄せ集めチームであるアメリカが最強のソ連に勝つにはソ連式を取り入れ、体力をつけるしかないと考える。アメリカ人はもともと、ホッケーなどの団体競技では北米リーグで優勝したり、プロに入って高い年俸を稼ぐのが目標で、オリンピックでメダルを取るなんてどうでもいい、みたいなところがある。だから、選ばれた選手たちも大学同士の確執をチームに持ち込んだりして、ナショナル・チームとしての自覚がない。このあたりが、選ばれればすぐに一丸となる、和を重んじる日本とは違うところだ。ブルックスはそういう彼らをしごきにしごく。相手チームの国のリンクだというのに、ふがいない試合のあとには猛特訓。うーん、まるで日本のスポ根みたいだぞ。それも、「巨人の星」の頃のような……。しかも、打倒ソ連って、東京五輪の東洋の魔女を映画化したらこういうふうになりそうだ。このあたりが今の日本人から見るとあまりにベタというか、日本人ならまだしも、アメリカ人にやられるとかえって気恥ずかしいという感じさえしてしまう(このあたりが公開されなかった理由の1つか?)。
 しかし、そういう気恥ずかしさを除けば(というより、アメリカ映画を見慣れていない人にはこれが異色とは感じられないだろうが)、これはよくできた映画である。ブルックスは60年のオリンピックでアメリカが優勝したとき、代表に選ばれながら、最終段階で代表をはずされたという過去を持っている。金メダルのチャンスを目前で奪われた彼は、コーチとして金メダルをめざしている。そういう彼の非常に個人的な思いと、それに振り回される家族の悩み、そして彼自身が今度は選手を代表からはずさなければならないなど、ブルックスの人生が非常によく描かれている。この映画はなによりもブルックスを描く映画であり、彼を演じることに情熱を傾けたカート・ラッセルの映画なのだ。
 ブルックスを描くことに集中したため、選手たち1人1人の背景がほとんど描かれなくなっているが、それはしかたないだろう。このあたりが複数の登場人物の人生をきめ細かに描いた「シービスケット」や「プライド 栄光への絆」と比べて見劣りするところではあるのだが。
 オリンピックをめざしているさなかに、ソ連はアフガニスタンに侵攻し、イランではアメリカ大使館が占拠されるという事件が起きる。オリンピックでは、「ソ連はアフガニスタンから出て行け」という垂れ幕を下げる観客、「共産主義者をやっつけろ」という手紙を書く者もいるが、ブルックスはオリンピックに政治を持ち込むそうした行動を苦々しく思う。その一方で、アフガン侵攻はソ連崩壊の予兆であり、ソ連もまた、混迷の時代を迎えていたことを暗に示しているのだ。
 クライマックスのホッケー・シーンはすばらしい。アメリカが勝ったのはミラクルではない、という意見があるが、確かに、若く潜在能力の高いアメリカ・チームが試合をするごとに強くなり、ベテランをそろえたソ連チームが実は下り坂だったのではないかと思わせるところがある(世界最高のゴーリーと呼ばれ、NHLで1度もプレーしなかったにもかかわらず、のちにNHLの殿堂入りを果たしたトレチャクが早々に交代させられてしまったのは驚いた)。
 アメリカとソ連が対戦したのは準決勝で、アメリカはその後、決勝でフィンランドを敗って優勝した。ブルックスは「このあと、アメリカでもドリームチームが作られたが、人々に何かを与えることができたのはこのオリンピックのチームだ」とナレーションで語る。負け犬と思われていた無名の選手たちががんばるというのは映画の定番である。ドリームチームではドラマにならない。
 ただ、ハリウッド映画では華々しく勝って終わりというのもイマイチ受けないようである。「シービスケット」のラストは、主人公は勝ったのかどうかわからなくなっている。「ミラクル」の主役たちは一流大学の選手ばかりで、金メダルを取ったあと、経済界などで成功したことがラストで語られる。このあたりが今ひとつ、ホッケー・ファン以外の観客の共感を呼びにくいと言えば呼びにくいところだろう。「シービスケット」や「プライド 栄光への絆」の貧しい社会的な弱者の方が人々の共感を呼ぶのだ。それでも、こういう題材を嫌みなく、アメリカ万歳にもならずに、社会情勢もまじえて描いたことはすばらしい。
 最後に、アメリカ・チームの一員、マイク・ラムゼイはその後、セイバーズの選手になった。今はミネソタ・ワイルドのアシスタント・コーチをしているとのことである。


「ミリオンダラー・ベイビー」 05/4/22

 試写室にもぐりこんで、やっと見てきました、アカデミー賞受賞作。予想したとおり、クリント・イーストウッドとヒラリー・スワンクが父と娘のような関係になる映画だったが、それ以外の部分はこちらの予想とはだいぶ違っていた。
 イーストウッド扮するボクシングのトレーナーがスワンク演じる女性ボクサーを育てる話、ではあるけれど、普通のスポ根ものでないとは思っていた。トレーナーはアイルランド系のカトリックで、ゲール語を理解し、イエイツの詩を読むインテリでもある。彼は昔、仲たがいした娘に手紙を送り続けているが、手紙はいつも返送されてくる。何があったのかは明らかにされないが、彼は娘に対して罪の意識を持ち、毎日、教会に通う。
 ヒロインのマギーは田舎の非常に貧しい家の生まれで、13歳から働きに出ている。母と弟と妹は最低の人間で、ただ一人、尊敬できる人間だった父はすでに亡くなっている。トレーナーとマギーはこうして父と娘のような関係になるが、トレーナーは自分のボクサーたちが傷つくのを恐れ、すべてに対して及び腰のようなところがある。
 演技賞を受賞したのはスワンクとモーガン・フリーマンだが、イーストウッドの演技が一番すばらしいと思った。人生に対してどこか腰が引けていて、いつも思い惑っているような老トレーナーの心理こそ、この映画の中心ではないかと思えてくるのだ。
 同じくアイルランド系であるマギーに、トレーナーはゲール語のあだ名を与え、アイルランドのシンボルである緑を衣装に使って演出するが、ハリウッド映画によくあるアイルランド讃歌とは無縁だ。父娘、スポーツ、アイルランドといった、ハリウッド映画によくあるパターンを使いながら、それがパターンにはまったくならないところがすごい。

 と、ここまでは映画ファン向けの紹介。これ以上はネタバレになるので、公開前には書けない。だが、この映画を見たあと、私はあの「バーツージ事件」のことをちょっと思い出してしまった。ネタバレありにつき、差し支えない人のみ。

 「バーツージ事件」は昨年のNHLレギュラーシーズン終盤、バンクーバー・カナックスのスター選手バーツージが試合中にコロラド・アバランチの選手ムーアの頭をいきなり殴りつけ、気絶して倒れたムーアの上に馬乗りになってさらに頭や首を殴ったという事件だ。ムーアは首の骨を骨折という重傷を負った。この前触れとして、以前の試合で、ムーアがカナックスのスター選手でバーツージの親友のナズルンドにぶつかり、脳震盪を起こさせたという事件があった。カナックス側はムーアがわざとやったのではないかと思い、その怒りがバーツージの暴力になってしまったのだという。
 もともとNHLは他のホッケーに比べて暴力や乱闘が多く、それがまた伝統として愛されているところさえあるのだが、この事件のときにはNHLの暴力が大いに議論の的になった。多くの人はバーツージの行為はホッケーの枠を越えた許されない暴力だと思ったが、どこまでが許される暴力でどこからが許されないのかを決めるのはむずかしい。だから、「NHLの暴力的な体質に問題がある。バーツージだけを責めるのはおかしい。スポーツに暴力は許されない」というような意見も出た。それに対し、「バーツージの暴力とホッケーで許されている暴力は違う。ホッケーの暴力が嫌いな人は格闘技も暴力だから嫌いで、スポーツとは認めないだろう」という意見があった。
 そこで、「ミリオンダラー・ベイビー」である。トレーナーの指導のもと、マギーはどんどん強くなり、ついにタイトルマッチを迎える。相手はやはり貧しい中からはい上がってきたドイツ人。「青い熊」と呼ばれる彼女は汚い手を使うことで有名だ。倒れた相手をさらに殴りつけるなど、日常茶飯事。マギーに対しても反則が絶えないので、トレーナーはレフェリーにわからないように反則するように言う。マギーは青い熊の尾てい骨を何度も殴りつけ、青い熊は大きな打撃を受ける。怒った彼女は、コーナーに戻ろうとするマギーを後ろから殴りつける。マギーはコーナーの椅子の上に頭から倒れ、首の骨を折って、全身麻痺になってしまう。
 幸いなことに、NHLのムーアは障害者にはならなかった。バーツージは執行猶予で済み、そのことに怒ったムーアはバーツージとカナックスの関係者に損害賠償を求めている。
 「ミリオンダラー・ベイビー」では、マギーを全身麻痺にした青い熊のその後は描かれない。青い熊の暴力を責めることもない。こういう選手を出場停止にしないボクシング界を責めることもない。トレーナーが自分の選手を高いレベルの試合に出したがらないのには理由がある。ジムで働くモーガン・フリーマンは非常に優秀な選手だったが、試合で片目を失明し、トレーナーが雑用係として雇っていなければホームレスになっていたかもしれないのだ。高いものを求めれば、それだけ高い危険がある。この映画は高いものをめざすことを必要以上に称賛していないし、スポーツの暴力や危険性についても意見を述べていない。ただ、それをひとつの現実として描いている。何も否定せず、積極的な肯定もしない。ただ、彼らはボクシングを愛し、そういう人生を受け入れている。


いいなあ。 05/4/20

 ニューヨーク州西部では、アデルフィア・ケーブルテレビが22日から毎週金曜の夜にセイバーズの試合の録画を放送するのだそうだ。
 いいなあ。
 93年から01年までの7試合。NHLの公式サイトにあるデレク・プラントのOTゴールの試合も入っている。もちろん、ハルの疑惑のゴールの試合も。
 毎週、金曜にバッファローへ行って、ケーブルテレビのあるホテルに泊まるとか、金があればできることだけど。

 すっかり忘れていたが、4月15日にバッファローで行なわれたスコッティ・バウマン・カップの試合。バッファローとロチェスターの中学高校生が対戦、中学生の部も高校生の部もバッファローが勝った。バッファロー・チームは黄色のジャージ、ロチェスター・チームは青のジャージを着用。青はアマークス(ロチェスター・アメリカンズ)の色だけれど、青と黄色はなにげにかつてのセイバーズのジャージ、ブルー・アンド・ゴールドである。
 実は、セイバーズがやった例のカラー・リンク。青い氷にオレンジ・ラインは、これもなにげにブルー・アンド・ゴールドだったのだ。だから半分遊び心だろうと思ったのです。

 ドイツは結局、ベルリンがスイープで優勝した。しかし、ヘヒトはかなり活躍した模様。


おめでとう、シャターン! 05/4/19

 スロバキア・リーグのプレーオフで、シャターンの所属するブラティスラバが優勝。シャターンがプレーオフMVPに選ばれた。
 シャターンがブラティスラバに参加したのは今年の1月からで、以来、レギュラー・シーズンでもプレーオフでも大活躍だった模様。ブラティスラバはセミファイナルでホッサ、デミトラら、NHLのスター選手をそろえたディフェンディング・チャンピオン、トレンシンを敗ってファイナルに駒を進めていた。地味な選手ばかりのチームらしいのだが、みんな、必死でプレーしていたのだそうだ。もちろん、シャターンの活躍が大きかったと思うが、実は、セミファイナルの相手、トレンシンはシャターンの古巣でもある。

 キャンベルの所属するフィンランドのヨケリットもファイナルに進んでいたが、残念ながら敗れてしまった(優勝はカルパト)。セミファイナルまでは大活躍だったキャンベルは、ファイナルではいいところがなかったようだ。これで、ヨーロッパの7大リーグのうち、優勝が決まっていないのはドイツだけ。そのドイツでは今、ヘヒトのマンハイムがベルリンとファイナルを戦っているけれど、0勝2敗で大手をかけられている(ドイツは3勝で優勝)。

 AHLは日曜日にレギュラーシーズンを終えた。結局、アマークスはリーグ首位、ミラーが最優秀ゴーリーに選ばれたものの、現在のアマークスはとてもプレーオフを勝ち抜ける状況ではなさそう。主力のケガ人5人のうち、デレク・ロイら2人が戻ってきたようだが、かわりにジェイソン・ポミンヴィルがかかとの骨折で今季絶望。それでも、レギュラーシーズンでこれだけの成績を残せたことを喜ぶべきかもしれない。

 NHLの公式サイトに、97年のプレーオフのOTゴールベスト10の映像がアップされている。第2位に選ばれていたのは、なんと、セイバーズの1回戦第7試合のデレク・プラントのゴール。これはハシェックが記者に対する暴力行為で出場停止になったいわく因縁のあるプレーオフで、当時のチームの裏事情を知っているとなかなか素直には見られないのであった。


ヴィニーのロシアンライフ 05/4/18

「スシ食いたい」と、彼はコヴァルチャクに通訳を頼んだ。

 タンパベイ・ライトニングのスター選手、ヴィニーことヴァンサン・ルカヴァリエは、NHLのロックアウト中、ロシア・エリートリーグのアク・バルス・カザンでプレーしていたが、タンパの「セント・ピーターズバーグ・タイムズ」の記者がはるばるモスクワの東400マイルにあるカザンまで出向いて彼を取材した。その記事が3月末にネットに出たのだけれど、これがすこぶる面白い。でも、非常に長いので、ダイジェストでご紹介、と思ったのだが、要約だとちっとも面白くならないのだ。なんでかなあ、と考えてみたら、内容のほとんどは、ロシアがいかに貧しいかとか、大都市の一部を除き、ホテルもアリーナもひどいとかいった、外国に興味のある人なら知っていることばかり。中にはロシア・リーグの裏事情など興味深い部分もあるが、この記事の面白さは、お金持ちのお坊ちゃんで高い年俸を稼ぐ弱冠24歳のルカヴァリエが、貧しいロシアで生活したりプレーしたりして、驚きながらも、「でも、それほどひどくはないよ」と、笑顔で語るところなのだ。
 だから、この面白さは全訳しないとだめ。ルカヴァリエが日本でも人気者だったら、どこかの雑誌に売り込んで、版権取ってもらって、私が翻訳するのに。
 英語のサイトへ行けば、原文で読める。フォト・ギャラリーもあるので、興味のある人はぜひ。こういう長い記事は雑誌で読みたいとつくづく思う。
 でも、何も紹介しないのもなんなので、一部、翻訳してご紹介。

1 シベリアのトイレで
 モスクワやサンクト・ペテルブルグのホテルはまだ耐えられる。遠征に行くほかの都市では当たり外れが大きい。食事がとても食べられないものだったり、バスルームが小さくて汚かったり。ほとんどの場合、6フィート4インチのルカヴァリエのからだはマットレスからはみ出してしまう。
「マリオット社のホテルってわけにはいかないからね」とルカヴァリエは言った。
 選手はよく、遠征にはタオルを持っていけと言われた。ある遠征の前には、便座を持っていった方がいいかもしれないと言われた。別の遠征では、ルカヴァリエは自分のトイレが必要になった。
 1月にシベリアで試合を終えたあと、ルカヴァリエは老朽化した空港でひどい風邪の症状になり、トイレに行きたくなった。それもすぐに。
 教えてもらった場所のドアを開けて中に飛び込むと、床に穴があるだけだった。用を足したあと、トイレットペイパーが見当たらなかったので、彼は財布をのぞいて小額紙幣を探すしかなかった。費用は100ルーブル、3ドルと少々かかった。
 ルカヴァリエの風邪はひどかったので、カザンの病院に1日入院して治療を受けなければならなかった。
「あの病院は……1930年代の古いハリウッド映画みたいだったね」と彼は言った。「本当に古いんだ。将軍がやってきて、ぼくを部屋に連れていった。その部屋にはぼく1人だった。ほかの患者はみんな、軍隊の人たちで、広い部屋にベッドを並べて寝ているんだ。患者は古いストレッチャーで運ばれていた。第2次世界大戦みたいだったよ」
 ルカヴァリエはこの2日間の災難の話をすると、肩をすくめ、笑みを浮かべて話を続けた。彼の身体的な特徴が広い肩やモデルのようなルックスにあるとすれば、その人柄は楽天主義と自信にあふれている。
 彼にとっては、天気もOK、食事もけっこう、人々は親切、ホッケーは楽しい、チームメイトはすばらしい。12月にブラッド・リチャーズがケガで故郷に帰ってしまったのはかなりイヤだったが、でも、まあ、そういうことは起こるものさ。

2 ロシア・リーグのドアマット
 アク・バルス・カザンはリーグの6つのエリート・チームの1つである。いずれもNHL選手をやとっている優勝候補だ。そのあとに続く4つか5つのチームは中くらいのチーム。その下はドアマット・チーム。
 リーグのルール・ナンバー1は、ドアマット・チームに負けてはいけないこと。負けたら罰金。文字通りの意味だ。ルカヴァリエは話そうとしなかったが、彼とチームメイトは最近、ドアマット・チームに負けて2千ドル、給料から差し引かれた。その試合は、カザンが14勝したあと初めての負けだったのに、である。
 トップ・チームとドアマット・チームの差は順位の差ではない。トップ・チームは飛行機で移動し、まっとうなアリーナでプレーし、ホテルに泊まる。
「幸運なことに、カザンは一流のチームだ」とルカヴァリエは言う。
 ドアマット・チームは給料がもらえれば運がいい。あるチームは2004年の3月から給料を払ってもらっていない。だから、選手たちはストライキをした。チームは無名の選手を代わりにやとって、ルカヴァリエのチームと対戦させた。
「中には13歳くらいの選手もいたよ」とルカヴァリエ。「本当さ。でも、プレーはタフだった」
 あまりのタフさに、あるチームメイトがベンチでこう言うのを数人の選手が聞いている。「おい、こいつらに負けたら、おれたちの誰かが撃ち殺されるぞ」
 冗談だったのだろう。カザンは7対3で勝った。

3 スシ食いたい
 ヤロミール・ヤーガーを擁するシベリアのチーム、アヴァンガルド・オムスクをカザンが迎えた最近の日曜の夜。その日はカザンのヘッドコーチの50歳の誕生日だったが、チームは4対1で敗れた。
 試合のあと、ルカヴァリエはサイン攻めにあった。その中には病院で彼を治療した数人の女性と1人の男性の姿もあった。ルカヴァリエは笑みを浮かべ、英語を話すファンにはできるだけ話をしようとした。しかし、ルカヴァリエと彼のチームメイトはカザンでは有名人ではない。通りで声をかけられたことは一度もないし、電話番号を書いた紙を渡したり、夜中にドアをノックしたりする女性もいない。
 試合中にブラスウェイト(元NHL選手のカナダ人ゴーリー)の車に積もった数インチの雪をはらいのけたあと、ルカヴァリエはチームメイトたちと試合後のディナーに出掛けた。ロシアではダニー・ヒートリーと並ぶ親友となっているブラスウェイトと、ジャパニーズ・ステーキハウスに車で向かった。
「ぼくはまだ1カ月しかいないのに、もうすぐ帰郷するんだ」とヒートリーは言った。「ヴィニーが11月からいるなんて、想像できない」
「ヴィニーがつらい目にあってると思うのか」とブラスウェイト。「おれは8月からいるんだぜ」
 今夜は少し食べてビールを1、2杯のつもりだ。ルカヴァリエは込み合った15人がけのテーブルに座り、メニューを手に取った。
 とにかくスシが食いたい。スシなら何でもいい。ウェイトレスは彼の注文がわからないらしい。苛立ちが彼の顔をよぎる。ロシア人のチームメイト、コヴァルチャクを呼んだ。
「コヴィ、ぼくの注文を彼女に言ってくれ」ルカヴァリエはメニューを指さした。コヴァルチャクとウェイトレスはいくつか言葉をかわした。ルカヴァリエはただ、彼らを見て、声を聞いているだけだった。
「言ったとおりだろ」と彼は言った。「これがここでのぼくの生活さ。一言も理解できないんだ」
 それでも、いつもどおり、すべてはうまく行った。食べたいスシは手に入った。ビールは冷たかった。ヴィニー・ルカヴァリエはハッピーだ。ロシアでの1日は今日も無事に終わったんだ、ねえ、それほどひどくはなかっただろ。
(トム・ジョーンズ「ラフ・トランスレーション」より抜粋)


ペンギンと多重人格とサハラ 05/4/15

 今回はフランス映画2本とアメリカ映画1本をご紹介。フランス映画はドキュメンタリーとミステリー、アメリカ映画は冒険もの。

「皇帝ペンギン」(7月公開)
 南極大陸の皇帝ペンギンのドキュメンタリー。「声の出演、ロマーヌ・ボーランジェ、シャルル・ベルリング……」などとプレスに書かれていたので、「かもめのジョナサン」かと思ったが、これはペンギンの母、父、子供の立場でナレーションを入れているだけ。涼しげな映像や寒そうな映像ばかりなので、夏に見るにはぴったりの映画だ。
 皇帝ペンギンはオスが卵を暖めている間に、メスが餌を取りに行くのだけれど、メスがオスに卵を渡すのがまず大変。失敗すると、卵はみるみる凍っていく。首尾よく卵を渡したあとも、オスもメスも苦難が待っているという、自然の厳しさを実感する映画。でも、ペンギンたちはかわいい。

「迷宮の女」(5月公開)
 多重人格もののミステリーだが、実は私は多重人格ものは苦手。何番目のサリーとか、何十何人のビリー・ミリガンとか、どこが面白いのかなあと思ってしまう。幼児期の虐待とか悲惨な話が出てくるのも引いてしまう理由。
 この映画は多重人格にミノタウロスを迷宮に閉じ込めたギリシャ神話を加えている。神話や伝説がからむ映画は好きなので、そのあたりがなかなか興味深く見られた。でも、多重人格ものとしては、毎度おなじみの展開、と思っていたら、最後にとんでもないどんでん返しが……(おうっと、それは言ってはいけない)。
 主演のランベール・ウィルソンとシルヴィー・テスチュの演技がすばらしい。アメリカ映画でこういう話だと、あまり人間性が感じられなくていやなのだが、さすがはフランス映画。しっとりとした情感が感じられる。

「サハラ 死の砂漠を脱出せよ」(6月公開)
 クライヴ・カッスラーの冒険小説の映画化。四半世紀前に「レイズ・ザ・タイタニック」という、カッスラー原作の映画を見た記憶があるが、原作者はこの映画に激怒、以来、映画化が許されなかったとか。そんなに激怒するような映画だったかなあ?
 「サハラ」はローテクのアクションとハイテクのアクションが混在しているところが面白い。でも、ハイテクのアクションはよくあるパターンなので、ローテクの方がいい。特に、墜落した飛行機を陸上のヨットのようにするシーン。監督はディズニーのアイズナー会長の息子だそうだ。
 「迷宮の女」のランベール・ウィルソンがここでは悪役を演じている。ウィルソンは83年の「サハラ」にも出演していた(内容はまったく別)。フランスの名優ジョルジュ・ウィルソンの息子だが、ロンドンの演劇学校出身なので、ハリウッド映画にもよく出ている。が、やはり、「迷宮の女」のような役の方が見応えがある。


忘れられたチーム 05/4/14

 フォックス・スポーツのサイトに、もしも今季のNHLがあったなら、というスペクターのコラムが出ていた。もしも今季があったなら、このチームは、あのチームは、と書いてあるのだが、29チームは一応、名前くらいは出ているのに、バッファロー・セイバーズは名前も出ていなかった!
 やっぱりね。ここが青い氷のリンクだの、変な新型ネットだのを発表したのは、ひとえに、忘れられないためだったのだわ。多分そうだろうと思ったけどさ。
 さて、二軍にあたるAHLのアマークスは、月曜の試合にようやく勝って、50勝となり、西カンファレンス首位を確保したようである。ゴーリーのミラーは40勝。40勝の大台に載ったゴーリーが出たのはリーグとしては40年ぶりだそうだ。もっとも、40年前にはNHLはたったの6チーム。AHLも今とは性格が違っていただろう。それに、NHLのシーズンがあれば、成績のいいゴーリーは上に上がるので、40勝ゴーリーが出なかっただけ、なのだそうだ。
 このほか、ヘッドコーチのランディ・カニワースが最優秀ヘッドコーチ賞を受賞した。
 アマークスとしては、これが最後の光、ろうそくの最後の炎という感じだろう。トップ・フォワード12人の内、5人が負傷して出場できないアマークスは、今季はもう終わったと言われている。終わりよければ万事よしと言うが、いくらレギュラーシーズンですばらしい記録を残しても、終盤になって希望がまったく失われるというのはなんとも無念だ。ECHLのコンドルズの福藤豊も、今季、あれだけ活躍したのに、終盤に来て負傷。チームはプレーオフに出場できるが、福藤の復帰には時間がかかるようで、こちらも最後に来て、悔しい思いをしていることだろう。

 おまけに日本のプロ野球の話題。昨夜の横浜対ヤクルト(横浜スタジアム)は入場者数が3800人余りだったそうだ。これって、MLBのモントリオール・エクスポスの観客動員より少ない?(エクスポスは4千人とか言われ、ついに、今季からワシントン・ナショナルズになった。)特にレフトスタンドはガラガラだった。雨で寒かったから、だそうだが、西日本のチームが相手だったら、レフトスタンドはもっと人がいただろうに。


欧州プレーオフ情報など 05/4/11

 石油成金のチームやイギリスのサッカー・チームを所有するロシア人のチームが、金でNHL選手を集めているのが話題になったロシア・リーグでは、アフィノゲノフ所属のモスクワが優勝した。石油成金チームやアブラモヴィッチのチームは残念でした。特にカザンは、今年、市制1千年ということで、なんとしても優勝したいと有名選手をかき集めていたのだが、プレーオフは1回戦敗退に終わった。アフィノゲノフは優勝に貢献したようで、何よりである。
 ドイツでは、ヘヒトの所属するマンハイムがセミファイナルに駒を進め、あと1勝でファイナルに進出。スロバキアは、シャターンのブラティスラバがただ今、ファイナルを戦っている。今のところ、2勝1敗でブラティスラバがリード。
 キャンベルとノロネンの対決になったフィンランドは、キャンベルのヨケリットが3勝0敗でファイナルに進出。フィンランドは3位決定戦もあるようで、ノロネンのチームは銅メダルになったそうだ。ブリエア、デュモン、タリンダーがベルンで活躍したスイスは、そのベルンを敗ったダフォスが優勝した。

 例の湾曲ネットやカラー・リンクは、半分はセイバーズの遊び心のようなもので、採用されることはないと思っていたが、案の定、7日のGM会議では新型ネットは紹介されたものの、議論の対象にはならず、もっぱら、ゴーリーの防具を小さくすることに話が集中したらしい。この会議では、NHLコミッショナーのベットマンと選手会代表のグッドナウも出席。ベットマンとグッドナウ(労使交渉の宿敵)は会議のあと、バーで40分ほど話をしたとか。労使交渉は第2幕に入り、今のところは大きな動きもなく、模様眺めといったところ。そんなわけで、私もこの件については、当分、静かにしていられそうだ。

 ティム・ホートンの事故について、酔っ払い運転や薬物は今の視点ではショッキングだけれど、当時はそれほどたいしたことではなかったはずだ、といった意見もある。また、薬は痛み止めとして使っていただけではないか、という意見も。しかし、酒と薬物を同時にやるとか、複数の薬物を同時に、とかいうのは、私にとっても他人事ではない。私は頭痛薬と鼻炎の薬と風邪薬を常備しているが、花粉症がひどいと鼻炎の薬と風邪薬を一緒に飲んだり、頭痛がひどいと頭痛薬と風邪薬を一緒に飲んだりしてしまう。これらは一緒に飲んではいけない薬なのだ。しかも、3つとも、カフェインが含まれているのである。だが、一緒に飲むとよく効いて、特に問題が起こらないと、ついついやってしまう。気をつけないといけない。


いい話と悪い話 05/4/10

「いいニュースと悪いニュースがある。どっちを先に聞きたい?」という台詞があるが、とりあえず、いい話から。
 アマークスのトマス・ヴァネクはAHLの今季のルーキー・チームに選ばれた。また、ファースト・ベスト・チームにはゴーリーのライアン・ミラーが選ばれている。ベテラン、クリス・テイラーはフレッド・T・ハント賞の受賞が決まった。
 悪い話は、アマークスは3月中旬からほとんど勝てず、それも、1試合、4点も5点も失点していること。1カ月前まではリーグ1強かったのに、今はリーグ1弱いのではないかと思ってしまう。特に金曜と土曜の試合では2ピリまではがんばっているのに、3ピリでメルトダウン。金曜の試合のあと、ヘッドコーチはロッカールームでブチギレして大暴れしたらしい。ケガ人が5人も出ており、下部リーグから選手を呼んだり、トライアウトまでして選手を補充しているが、戦力低下はいかんともしがたいようだ。
 もう1つの悪い話は、以前、ここで紹介したティム・ホートンのこと。長年、トロント・メイプルリーフスで活躍し、最後にセイバーズに来た彼は、1974年2月、古巣リーフスとの試合を終えたあと、トロントの友人たちと会い、深夜にバッファローへ帰る途中、オンタリオ州セント・キャサリンの近くで事故を起こし、亡くなった。そのとき、時速110キロもの猛スピードを出していたとは聞いていたが、実は、酒と薬物を飲んでいたのだ。
「Ottawa Citizen」によると、警察の検死報告では、ホートンの体内からはアルコールと鎮静・睡眠剤が検出された。彼の車の中にはウォッカのビンと薬物のカクテルがあった(酔っ払い運転だったのだろうとは想像していたが、NHL選手の薬物依存がこの時代からすでにあったということなのだろうか)。ホートンの車から出てきた薬物は、普通はナルコレプシー(睡眠発作)のために処方されるアンフェタミン(中枢神経刺激剤)「デキセドリン」と、肥満・憂鬱症治療のための混合薬物「デキサミル」だった。このとき、彼はあごをケガしていたので、痛み止めの薬を飲んでいると思われていたようだ。
 ホートンはカナダ全土にあるドーナツ・チェーン店の創始者としても有名。選手としても人間としても愛され、尊敬されていた人物らしいのだが、30年以上たってこういう情報が出てきたことにショックを受ける人もいる。なお、オンタリオ州ではこうした個人情報は死後30年たたないと発表できないことになっているので、これまで明るみにならなかったのだそうだ。(情報はBuffalo Newsより)


初夏の映画紹介 05/4/8

「やさしくキスをして」
 イギリス・スコットランドのグラスゴーを舞台に、パキスタン移民二世の青年とキリスト教徒の女性の恋を描くドラマ。ヒロインは音楽教師で、教え子の兄である青年にグランドピアノを運んでもらったのがきっかけで恋に落ちる。グラスゴーとピアノといえば、以前に紹介した「ダニー・ザ・ドッグ」もそうだったのだけれど、あちらはジェット・リーやモーガン・フリーマンが出演し、スタッフはフランス人ばかりと、グラスゴーの必然性が今ひとつというか、フィクションを成立させる世界としてのグラスゴーという感じだったのだが、こちらはイギリスのリアリズム映画の巨匠ケン・ローチ監督の映画なので、内容はリアルそのもの。イスラム教徒と暮らすヒロインに圧力をかけるカトリック系の公立学校、異教徒との恋を許さない青年の家族といった、現代にも残るさまざまな因習に悩むカップルが描かれる。もっとも、学校にもヒロインを理解する教師もいるし、青年の家族にも理解する人、絶対反対の人などさまざまである。こうした1人1人の人物をきめ細かく描く演出が実にみごと。とても見応えのある、感動的な映画だった。

「アルフィー」
 マイケル・ケイン主演の60年代のイギリス映画のリメイク。オリジナルはバート・バカラックの主題歌が有名だが、映画はどの程度知られているだろう。私も昔、テレビで見たきりなのだけど、ジュード・ロウは以前、マイケル・ケインの若い頃に似ていると思ったことがあったので、ちょっと期待していた。だが、時代は現代、舞台はニューヨークで、ハリウッド的なオブラートのかかった映画では、ファッション的な軽い話にしかならない。「リプリー」など、映画によってはすばらしい個性と演技を見せるロウも、オリジナルのケインのような鋭さも力強さもない。「ハンナとその姉妹」と「サイダーハウス・ルール」でアカデミー賞助演男優賞を受賞したケインは、非常に幅広い演技力を持つ俳優だが、セクシーな二枚目だった若い頃もその存在感と演技は群を抜いていた。彼に比べると、どうしてもロウは小物に見えてしまう。70年代初めに「探偵スルース」でケインの大ファンになった私は、90年代に登場したロウに若き日のケインを見て、ロウにもとても期待するようになったのであるが。


新型ネットお目見え 05/4/5

 ゴール数を増やす目的でセイバーズが考案した新型ネットが4月3日、バッファローで行われたアマークスの試合のインターバルで披露された。
 以前にも書いた、セイバーズ主催のスコッティ・ボウマン・カップの試合に参加するバッファローとロチェスターの高校生がこのネットでシュートアウトを行なった。ゴーリーも高校生とのこと。
 このネットを使うと、ゴール数が12パーセント、アップするのだそうで、また、ゴーリーも今よりスキルが要求されるようになるらしい。
 セイバーズ公式サイトではファンの好感度の投票が行なわれていて、今のところ、「いい」と「悪い」が同じくらいである。「ややいい」「どちらでもない」「やや悪い」にはあまり票が入っていない。つまり、両極端ということ(「悪い」の方がやや多い)。
 このネット、例のブルーアイスとオレンジラインと合わせて、7日のオーナー会議で提案される予定。はてさて、どうなることか。

 連敗が続いていたアマークスは3日は勝って、ノース・ディヴィンジョン1位を確保した。しかし、またしても相手に4点も取られている。これで4試合、2人のゴーリーで18点。プレーオフが思いやられるよ、まったく。


セイバーズ選手の近況4 05/4/4

 スロバキア・リーグのプレーオフで、セミファイナルに出場していたシャターンのチームは、ホッサやデミトラのいるチームを4勝3敗で敗り、ファイナルに駒を進めた。シャターンはプレーオフで2度目のハットトリックを決めた。
 フィンランドではキャンベルの所属するヨケリットとノロネンの所属するHPKがプレーオフで対戦中。ただ今、ヨケリットが2勝して、大手をかけている(こちらは3勝で勝ち抜け)。セイバーズではパッとしなかったキャンベルはヨケリットでかなり活躍している様子。ノロネンも敗戦とは言え、いいプレーをしているとのこと。

 牛島新監督の横浜ベイスターズは、因縁の落合中日にようやく1勝。3連敗を免れた。しかし、AHLのアマークスは、この期に及んでポイントなしの3連敗(オーバータイム負けやシュートアウト負けは引分と同じでポイントがつく)。絶不調の開幕当初以来のひどい記録だ。しかも3試合で14点も取られている。確かにケガ人続出ではあるのだが……。現地時間で3日夕方からはバッファローで試合が予定されている。例の、ブルーアイスにオレンジラインのリンクである。

 ところで、セイバーズのエース、シャターンは、6月末に契約が切れて、UFAになるそうである。実は、セイバーズは多くの選手が今季1年だけの契約だったり、シャターンのように、今季で契約切れになる選手が多く、来季以降も契約が続いているのはドゥルーリーなど9人にすぎない。これはNHLの他のチームも同じで、どこも多くて10人前後、少ないところは5人とかそのくらいしか来季以降の契約がないのだ。
 シャターンの場合、7月以降はUFAになるので、彼は自由にチームを選ぶことができるようになる。NHLは現在、ロックアウト中で、労使協約がまとまっていない。この労使協約がまとまらないと、トレードもできないし、新たな契約もできないのだ。また、新しい労使協約ではサラリーキャップの導入やUFA年齢の引き下げが予想されるが、それによって、昨季までの労使協約ではUFAにならない年齢の選手たちもUFAになるかもしれない。そうなると、それこそ、27、8歳のブリエアやビロンがUFA選手にならないとも限らないのだ。新しい労使協約が結ばれるのがいつになるかはわからないが、結ばれたら結ばれたで、どのチームも大きな変化に見舞われるのは間違いない。


1日遅れのエイプリル・フール 05/4/2

(以下はカナダのスポーツサイト、SLAM!SPORTSに出たエイプリル・フールのニュース。70年代にセイバーズが架空の日本人選手をドラフトしたという事実をもとにしたウソ記事です。プロレスの世界に疎いので、翻訳に自信はないが、一部省略してご紹介。)

ホッケー・スター、リンクからリングへ

文・ジョン・ウォルドマン(スラム!レスリング)

 NHLのロックアウトが長引くにつれ、一部の選手は他のスポーツに鞍替えしている。そんな選手の1人、タロウ・ツジモトはアイススケートをレスリング・ブーツにはきかえた。
 1974年にバッファロー・セイバーズにドラフトされたツジモトは、ホッケーの最高峰に挑もうとしていたとき、ゲイリー・ベットマンがNHLのシーズンをキャンセルしてしまった。スラム!の独占インタビューによれば、彼は今季がキャンセルされるとすぐにホッケーの夢をひとまず断念したと語った。
「バッファローに最初にドラフトされてからもう30年以上たっているが、日本では大いに活躍していたので、北米のホッケーに戻れると思っていた」とツジモトは語る。「キャンセルが宣言されて、目標達成にはしばらく待たねばと思ったよ」
 2カ月前にツジモトがホッケー界を去ると宣言したとき、プロレスのプロモーターたちが彼に目をつけ、プロレス界に入るかどうか打診した。ライトウィンガーの彼が所属する東京カタナズは過去5年間、ペナルティ時間数がリーグ1位で、彼の乱闘にはカルト的な人気があった。
 やがて、KF1のプロモーター、A・フーリヤマ(馬鹿山? フーリガン山?)が人気者ツジモトと契約した。「ツジモトの要求は大きかったが、いくらでも円をつぎ込む価値はある」とフーリヤマは言った。「彼には熱狂的なファンがたくさんいるんだ」
 多くのファンはツジモトがリンクからリングへすぐに適応したことに驚いたが、彼の来歴を知る人々はさほどショックを受けなかった。「おれは昔からずっとプロレスのファンなんだ」とツジモトは語る。「東京工業大学時代、ジャンボ鶴田の指導を受けたんだよ。あの頃のアマチュア時代から、常にリングに上がれるように体を鍛えていたのさ」
 NHLの夢は一時お預けになったが、ツジモトは北米のプロレスへの飛躍を考えている。噂によれば、WWEがツジモトとの契約に興味をもっているらしい。ツジモトはその噂は事実だとすぐに認めた。「ヴィンス・マクマホンから電話があった」と彼は言う。「電話じゃずいぶん礼儀正しかったね。デイヴ”ザ・ハンマー”シュルツをおれのマネージャーにするとまで言っていたよ」
 ツジモトは提示された契約内容を話すことはできないが、WWEで仕事をするには1つ条件があると語った。「ヴィンスに電話で言ってやったよ、「ばかげた仕掛けをしたら、すぐにおまえのテレビ番組からおさらばしてやるからな」」とツジモトは言った。「ああいう創造性の高いチームがあんな仕掛けをするなんて、何を考えてるんだかわからん。おれはああいう不名誉なことで名前を汚したくないのさ」

 2000年からスラム!のライターをしているジョン・ウォルドマンは、埼玉スーパーアリーナで行われるツジモトの次の試合を取材する予定。

訳者注
・北米以外のホッケーでは、NHLのような乱闘はめったにありません。念のため。
・ザ・ハンマーとは、セイバーズやフライヤーズで乱闘係として活躍したデイヴ・シュルツのこと。
・東京カタナズももちろん、架空のチーム。カタナズはセイバーズの日本語訳。ツジモト・タロウ、及び、東京カタナズは、当時のセイバーズGMが考えた名前。


ブリエアの負傷のことなど 05/4/1

 スイスのベルンで大活躍したブリエアだが、シーズン中に3、4回、腰を負傷していたことが明らかになった。プレーオフは痛みをこらえての出場だったようで、4月末からの世界選手権には出られそうにないとのこと。スイスを離れるまではこんなことはおくびにも出さず、ベルンのファンを喜ばせていたのに、実はこんな状態だったとは。ブリエアこそセイバーズの未来、と思っているセイバーズ・ファンは心配、NHL選手が次々、世界選手権辞退で、ブリエアの出場に期待していたカナダ人はがっくり、というところ。
 「これだから、ヨーロッパでプレーしない方がいいのに」という意見もあるけれど、北米に比べて、ラフ・プレーへのペナルティーが非常にきびしいヨーロッパの方が、本来はケガの心配が少ないのだが……。

 NHLが左右と上の部分を湾曲させたゴールネットを提案するというニュースが伝わった。実はこれ、セイバーズが考案したゴールネットなのである。
 NHLは試合を面白くするためにさまざまな変更を考えている。その1つがゴールネットを広くすることで、近年、ゴーリーがやたら大きな防具をつけてネットをふさいでいるので、ゴール数が非常に少なくなり、それが試合をつまらなくしているという説があるためだ。
 防具を小さくするという案もあるのだが、「そんなことしても、ゴーリーはパンツに10インチも綿を詰めてくるからだめだ」と言うのがセイバーズのヘッドコーチ、リンディ・ラフ。「ゴールネットを大きくしろ」というのはかねてからのラフの持論である。
 セイバーズのゴーリー、ビロンはこのネットについて、「思ったほど広くない。これならOK」と言ったそうだが、世間の評判は今のところ、あまり芳しくない模様。
 先だっての青い氷とオレンジラインに続いて、セイバーズはいつも変なことを考えると思われてしまいそうだ。もっとも、青い氷とオレンジラインはNHLの依頼によるもので、セイバーズの発案ではないのだけれど、70年代に架空の日本人選手をでっちあげてドラフト8位で指名してしまったチームである(ちなみに9位の選手は実在した)。新奇なことはまずセイバーズで、という伝統があるのかもしれない(まさか、エイプリル・フールではないでしょうね)。